私は来年の3月で仕事を辞め、小学生の娘と2人で「世界一周の旅」に出る予定のシングルマザーです。
「世界一周」といっても、何年もかけて何十カ国を巡るような、いわゆる“バックパッカー的な冒険”ではありません。期間は2〜3ヶ月ほど。のんびりと、好きな国をいくつか訪れる、少し長めの海外旅行といった方が正確かもしれません。
ただ、これまでの旅行とは一線を画す点があります。それは、フライトに「世界一周航空券」を使うということ。
これは私にとって初めての試みであり、親子にとって特別な旅になることは間違いありません。だからこそ、自分を奮い立たせる意味でも、あえてこの旅を「世界一周」と呼ぶことにしています。

娘の初海外はハワイ。疲弊したのも良い思い出
この世界一周航空券は、ワンワールドとスターアライアンスの2大アライアンスが発行しているもので、現金で購入するタイプと、マイルを使用して発行する特典航空券の2種類が存在します。
わたしはスターアライアンスの世界一周特典航空券を発券するべく、コツコツとマイルを貯めてきたのだけど(貯め方についてはまた別の記事で)、なんと今年2025年6月でその発券が終了となってしまうので、のんびりしている場合ではなくなりました。
そんな思いがけない「締め切り」がやってきたせいで(おかげで?)、『本当に行くのか?行っていいのか?』とイマイチ決心しきれなかった私も、いよいよ発券に向けて急ピッチで準備せざるを得なくなったわけです。
発券にあたっては、スターアライアンスのシミュレーションサイトと睨めっこしながら「あーでもないこーでもない」とルートを確定していくわけなのだけど、そう簡単に決まるものでもなく。
ルートを決めるのも難しいけど、子連れであること・中東や南米はそもそも行ったことがないこと・世界情勢その他諸々考えていると、「本当に今行くべきなのか?もっと他にやることがあるのでは?」と決意が揺らいでくるのです。
そこで今回は、なぜ世界一周に出ようと思ったのか、仕事を辞めることにしたのか、娘と2人で決心した経緯について改めて振り返ることで、自分の気持ちを整理していきたいと思います。
きっかけは娘の「学童辞めたい」
我が家は、娘とわたしの2人暮らし。私がフルタイムワーカーであるため、小学生にあがった娘は必然的に学童へ通うことになりました。
ご存知のとおり、今の日本は全国的に「学童の待機児童」が爆発的に増えていて、民間の学童に通わせない限りは選り好みで学童を決めることはできません。私たちの住んでいる自治体も例外ではなく、娘は学区で決められた唯一の学童に通うことになりました。
私は、待機にならずに済んだことに大いに満足して、そこで娘がどんな風に過ごすのかなんてことに想像を巡らせることはありませんでした。「19時まで延長保育があって良かった」「夏休みは配食サービスがあって助かる」そんなことしか考えていなかったのです。
でも今思うと、初めから違和感はありました。
娘が通っていた学童はとても規律に厳しく、昭和生まれの私ですらたじろぐような、ちょっとした軍隊のような雰囲気がありました。
かなりマイペースな娘は、何か行動を強制されることを異様に嫌うので、この軍隊の列に付いていくのが苦痛で仕方なかったようです。
夏の終わりのある晩、布団に入って寝入りかけていた私にそっと「ママ、学童辞めたい」と涙ながらに呟きました。
わたしが守りたいものとは?
その日の晩は眠れませんでした。
娘はマイペースながらも繊細な子なので、学童を辞めたいと言えば私が困るだろうと察していたに違いありません。
「一体いつから辞めたかったんだろう?いや、最初から楽しそうではなかったよな。先生が厳しいと言っていたよな。なんで気付かなかったんだろう。いや、私は気付かないフリをしていたんだ…」
そんなことを考えながら、他に通える民間学童を探しました。
あるにはある。でも月謝が今までの10倍くらいする。
今までみたいに歩いて行けないから送迎はどうする?
送迎代っていくらなの?
あ、夏休みはもっと高くなるのか…
・・・
そんなことを一晩中調べながら、ふと思ったのです。
「あれ?そこまでして私が働く意味って何だっけ?」
行きたくもない学童に娘を通わせてまで、なぜ私は働いているの?
何を守ろうとしているの?
お金のため?
ーいや、少しくらいは貯金があるじゃないか。
キャリアのため?
ーいや、手放すのが惜しいほどのキャリアか?資格もあるし、いつでもどこでも働ける。
世間体のため?
ー最もどうでもいいことじゃないか。
もちろん、ずっと働かないという訳にはいきません。娘の学費のための貯金なんていくらあっても足りないし、何より、私は働くことが結構好きです。
でも、今優先すべきは、娘に我慢を強いてまで働くことなのだろうか…?
「仕事を辞める」という選択
私は過去に一度転職を経験しています。転職と言ってもキャリアアップとかそんなポジティブなものではありません。前に勤めていた会社で心身を患ったことがきっかけでした。
その時に痛感したのです。「体を壊してまでやるべき仕事なんてない」と。
今回心を患ったのは私ではなく娘。自分が壊れるよりも辛いものがありました。
そうは言っても、さすがにすぐ辞める訳にはいきません。色々な事情が重なり、辞めるのは2026年春にするのがベストだという結論に至りました。
それまでは、私が在宅ワークをしたり習い事を増やしたりすることで、娘は学童に通わずとも何とか放課後を過ごせるようになりました。
しかし、ワークライフバランスが取れている生活も今年度限り。2026年春には私の社内異動が確定しており、次の配属先では在宅勤務も定時退社もほぼ不可能だからです。
事情を話せば異動回避も可能かもしれません。でも、そこまで執着するようなキャリアでもない。
娘が「学童辞めたい」と呟いたあの日から、私は、これからの働き方・お金のこと・娘との生き方について禿げるほど考え、本もたくさん読みました。
そして、一つの結論に至ったのです。
「一度仕事を辞めて、娘と一緒に、今しか出来ない経験をする!」
“経験”こそが真の財産
この決断に至るまでに読んだ多くの本の中でも特に、『DIE WITH ZERO』は、私の人生観を大きく揺さぶりました。
既に読んだことがおありの方も多いかと思いますが、ざっくり紹介すると「人生の時間とお金を最大限に活かして、死ぬ時に後悔しないよう、“貯める”より“経験する”人生を選べ」という内容です。
「死ぬときに残るのはお金ではなく、思い出である。だから経験に投資すべきだ」というこの考え方は、当時の私の重荷をすっと軽くしてくれました。
離婚後、私は1円単位で家計を管理し、「不要不急」な支出は徹底的に排除してきました。でも、その中でも娘との旅行や思い出づくりだけは「必要経費」として確保してきたのです。
この本を読んだとき、「あぁ、それで良かったのだ。私は間違っていなかった」と、心から安心したことを今でも覚えています。
そしてもう一冊。私の背中を押してくれた本がこちら。『あした死ぬかもよ?』
こちらは、序章だけでも是非オーディブルで聴いてもらいたいのだけど、自分の死が間近に迫ったときのことをリアルに想像することができます。
私が死ぬ瞬間に後悔するだろうと頭に浮かんだのは、「なぜ娘と一緒に世界中を旅しなかったんだろう」ということ。
娘はマイペースだけど繊細で、そして素晴らしい感性を持っている子です。好奇心旺盛で、好きなことをする集中力は大人には真似できないほど。
そんな彼女と一緒に過ごす時間は、とても愛おしくて楽しくてたまらない。年々、知識や感性がどんどん磨かれていく娘の成長を、間近で見守るのは本当に面白く、貴重な時間だと感じています。
そして、その貴重な2人の時間はあっという間に終わることも知っています。
だったら。
「いつか」と言わず、仕事を辞めるついでに、健康な体と少しのお金がある今こそ2人で旅に出るべきなんじゃないか?
そう思ったわけです。
我ながら、結構バカだなぁと思います。
でも、娘も大賛成してくれて、「海外のお店で注文してみたい!」と英語を勉強するほどノリ気になってくれました。
あした死ぬかもよ
私は母を亡くしています。私が娘を出産する数ヶ月前に亡くなりました。
母は、私が幼い頃から病気がちでよく体調を崩していたし、亡くなる前も数年間を病院で過ごしました。
長生きは出来なかった母だけど、父というパートナーに最期まで愛されて支えられて、とても幸せな人生だったと思います。
そんな母をずっと見てきたからでしょうか。健康とか死に対して考えることが、私は昔から人一倍多かったように思います。
私が感銘を受けた上記の2冊も、死から逆算して人生をどう生きるか、を説いた本です。生きるとは死を意識することなんだとつくづく思います。
私があした死ぬとして後悔すること。それは「世界中を旅しなかったこと」それから「娘ともっと一緒に過ごさなかったこと」。
私はシングルマザーで、再婚する気もないので愛するパートナーに看取られることもない。でもこの2つを達成できたら、自分で自分を褒め称えながら後悔することなく死ねるような気がするのです。
私が“世界”に憧れるワケ
そもそも何故わたしが世界一周にそんなにも憧れるのか。
きっかけは、小さい頃に読んだ星野道夫さんの写真集だったと思います。
星野さんは言わずと知れた有名な写真家で、アラスカの大自然や動物たちの写真、そしてそれに添えられた文章がとても素敵な写真集でした。
その写真集が何故か実家の本棚にあって、迫力ある写真と星野さんの冒険記録を読みながら「こんな世界が、こんな人生があるのか!」とワクワクしながら読んだのを覚えています。
↑当時読んだ写真集ではないけど、この本も本当に素晴らしい
私たちの住んでいるこの世界の広さ、冒険することの楽しさを知ったきっかけは、間違いなくその写真集がきっかけです。
でもその後の私の人生は、勉強や部活、仕事に子育てと、世界中を旅するような機会を作ることもなく、この歳(現在アラフォー)になりました。
世界を旅しているバックパッカー達にいまだに憧れを抱いているのも、この小さい頃に感じたワクワク感を忘れられないからだと思います。
今回の世界一周ではさすがにアラスカまで足を伸ばすことは難しいですが、この地球上にある大自然や世界遺産をこの目で見て、娘と一緒に感動やワクワクを共有したいと思っています。
大切なのは出発すること
星野道夫さんの本の中でも特に好きな言葉、「大切なことは出発することだった」。
今回、このタイミングで小学生の娘と2人で世界一周することが正解なのかどうか、私には分かりません。
帰国したらまた働くとは言え、一時は職を失うわけだし、娘も(短期間ではあるが)学校を休ませるつもりでいる。
何の不安もなく、手放しで人に誇らしげに話せるような状況ではない中で出発することも重々分かっています。
それでも、娘と一緒に世界を見てみたい。ワクワクを共有してみたい。繊細すぎて引きこもりがちな娘に、「世界ってこんなに広いんだよ、色んな人がいるんだよ」ということを知ってもらいたい。学校や仕事という枠を飛び出して、娘と2人だけの時間をゆっくり過ごしたい。
そんな理由で?と思われるかもしれないけど、私が、今出発するには充分な理由かなと思っています。
今回このブログを書いたのは、誰かに読んでもらうというより、自分の中のもう1人の自分を説得するために書いたような気もします。
いずれにしても、書いていて改めて決心することができました。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。素敵な旅になるように、安全に娘と帰って来られるように、あと少し準備頑張ります。